監修:東北大学大学院環境科学研究科、プラスチック・スマート戦略のための超域学際研究拠点
わたしたちが暮らしていくうえで、大切にしていかなくてはいけない、美しい自然。それが、わたしたちの暮らしからあふれたごみで汚れています。
なかでも海洋汚染は切実な問題になっています。
日々のくらしのなかに存在するたくさんのプラスチックの製品。適正に回収・処理・リサイクルされず、川や海に流れ出てしまう原因のひとつがポイ捨てなどの無責任な行動です。
世界では1年で約800万トンのプラスチックが海に流出しているとの試算や※1、このままでは、2050年には海洋プラスチックごみの重量が海にいる魚の量よりも多くなる※2との報告もあります。
※1
環境省_令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書
WWF海洋プラスチック問題について Neufeld, L., et al. (2016)
This not only results in a loss of USD 80 to 120 billion per year, but if the current trend continues, there could be more plastic than fish (by weight) in the ocean by 2050.
これにより、年間800〜1,200億米ドルの損失が発生するだけでなく、現在の傾向が続く場合、2050年までに海洋には魚(重量)よりも多くのプラスチックが存在する可能性があります。
This is in line with our 2016 analysis, which revealed that in 2050 there could be more plastic than fish in the ocean.
これは、2050年には海に魚よりも多くのプラスチックが存在する可能性があることを明らかにした2016年の分析と一致しています。
浜辺に打ち上げられたクジラの胃袋から大量のビニール袋が発見されたり、ウミガメやイルカが誤って、プラスチックごみを食べてしまい、傷を負うなどの悲しいニュースが増えています。また、砕かれて、細かくなったプラスチックごみは、マイクロプラスチックと言われていて、小さい魚たちも誤って食べてしまうという問題も出てきています。
マイクロプラスチックについて
わたしたちの街の海はどうでしょう。仙台市の荒浜の海岸で海岸ごみ・漂着物の調査をしました。集めた海岸ごみ・漂着物のうち約30%がプラスチックや発泡スチロール、ガラス・陶器などの人工物で、その人工物のうちの半数以上がプラスチックごみでした。
海岸ごみ・漂着物調査
どうして、ごみが海や海岸にたどり着いてしまうのか、わたしたちの街の海を大切にすることはできるのか、ともに考えてみませんか。
プラスチックごみを適正に処理すること。マイボトルやエコバッグなどを使い、ごみ削減を意識していくこと。使い捨て(ワンウェイ)プラスチックではない天然素材の服やアイテム、使われているプラスチック量が少ない日用品を選ぶこと。持ち物を大切に、長く使い続けること。社会課題や地域のことに目を向け、取り組み方や継続の仕方を考えていくこと。みらいのわたしたちへ、いま、できることをはじめていきましょう。
監修の先生からのメッセージ
プラスチック・スマート戦略のための超域学際研究拠点 代表 /
東北大学大学院環境科学研究科 先進社会環境学専攻 環境政策学講座 環境・エネルギー経済学分野 松八重 一代 教授
プラスチックを使うことによって我々の生活で得られる恩恵は大きい一方で、プラスチック廃棄物の不適正な管理が引き起こす環境・社会的な負の影響は深刻化しています。プラスチック利用に関する持続可能なあり方は、国・地域、産業構造、消費パターンの違いによって異なり、専門家においても多様な見解があります。これが最善という答えは、まだまだ探している最中です。
でも問題解決を急ぐ前に、重要なことがあります。
私達が大事にしている海岸が、誰かが置き去りにしたゴミで汚されるのはイヤだと感じますか?私達の暮らしの中で出てくるゴミが、河川・海洋を介して他の国・地域の環境を汚すことも、同じようにイヤだと感じますか?ちょっと遠いところで起こっている問題を自分には関係の無いことと思わずに、想像力を働かせてみましょう。
問題意識を共有することは、みんなが納得できる方向を決める上でとても重要です。
みんなが使うものだからこそ、みんなでプラスチックとの付き合い方を考えてみましょう。
東北大学大学院環境科学研究科 先進社会環境学専攻 地圏環境政策学分野
齋藤 優子 准教授
持続可能な環境と心豊かな人間社会を両立するためには、「環境価値」というものに目を向け、考え、行動しなければならない時代になったと思います。環境に関わる研究を行う我々研究者の役割は、私たちの環境価値観のもとになる科学的根拠の探求・究明にあると考えています。
市民・行政・企業・NPO・学生・地域…様々な立場のステークホルダーが、それぞれの立場で、または立場によらず、何ができるか、何をしたいか、まず考えてみることが環境価値観の種になります。
昨今世界的にクローズアップされているプラスチックに関しても、私たち自身の環境価値観の種を持ち、大きく育てていきたいですね。