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暮らしのいろんな場面で遭遇!『宮城県産業技術総合センター』が関わるあんなこと、こんなもの

地域でものづくり産業を行う事業者などに向けて、研究開発や試験分析、技術支援などを提供している『宮城県産業技術総合センター(以下、センタ-)』。大会議場などを含む12の施設、242の機器類、そしてものづくりの技術相談や支援・研究開発を行う研究員を擁する、宮城県の公設試験研究機関です。

支援の領域は、自動車産業、機械電子情報技術、材料開発、分析技術そして食品バイオ技術などと多岐にわたります。センターが支援して製品化されたもののなかには、豆腐や醤油、日本酒など私たちの生活に身近なものも。さらに、センターの支援によって環境に配慮した材料が誕生したり、私たち仙台市民がエコについて楽しく学べるイベントにも関わっています!

そこで今回は研究員の佐藤勲征さん、遠藤崇正さんにご協力いただき、センターの“エコ”につながる取り組みについてお話を伺いました。

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宮城県産業技術総合センター
材料開発・分析技術部
佐藤勲征さん(左)、遠藤崇正さん(右)

廃プラスチックを原料にしたメダル作りを支援

最初にご紹介するのは、エコを楽しく学び体験できる取り組みでの協業です。2024年9月、勾当台公園で行われた『エコフェスタ2024』で、仙台市家庭ごみ減量課と大学生を中心としたごみ分別プロジェクト「ワケルキャンパス」がひとつのブースを出展しました。来場者に廃プラスチック(ペットボトルのキャップ)を原料にしたメダル作りを体験してもらうことで、プラスチックのリサイクルについて楽しく考えてもらうことが目的です。メダルは小型の射出成形機を用い、溶かした廃プラスチックを金型に射出して作る工程でしたが、センターではその金型の製作を担当しました。

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『エコフェスタ2024』で来場者の皆さんに作っていただいた、
廃プラスチックを利用したワケ猫ちゃんメダル

メダルには、仙台市のごみ減量・リサイクル推進キャンペーンキャラクター「ワケルファミリー」の一員、ワケ猫ちゃんのイラストが施されています。このワケ猫ちゃんメダルの金型を設計し、センター所有の「五軸マシニングセンタ」と呼ばれる切削加工の工作機械で製作しました。

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ワケ猫ちゃんメダルの金型製作の際に使われた3Dデータ(左)と、
金型の切削加工を行った五軸マシニングセンタ(右)

金型製作の際は、まずイラストから金型の3Dデータを設計し、3D化されたデータを用いて加工に使用する工具を定義します。直径1mmの工具での粗加工から徐々に複雑な部分を加工していき、ヒゲなどの細かい部分は直径0.1mmの工具で仕上げたそうです。

金型を作る際に注意したのは、射出された原料が金型からはがれやすいように、細かい部分も勾配をつけて加工したこと。3Dデータをよく見ると、頬の赤みを表現した凹凸の1つひとつが緩やかな勾配を描いています。このような調整を経て完成した金型を使って、『エコフェスタ2024』では多くの来場者の皆さんにメダル作りを楽しんでもらうことができました。

仙台市の「指定袋」の組成や強度を試験分析

センターでは、仙台市民にとってさらに身近な、家庭ごみやプラスチック資源を排出する際に使う「指定袋」にも関わっています。有料化に伴い仕様を見直した時から強度の品質確保に関わり、仕様通りの強度を保っているかどうか、定期的に試験を行っています。取材に訪れた日は、指定袋の強度試験のデモンストレーションを行っていただきました。

試験は、引張圧縮試験機と呼ばれる試験装置を用いて行われます。まず指定袋からダンベル状の試験片を打ち抜き、試験装置にセット。試験がスタートすると引っ張り荷重がかかって試験片は伸び、破断することで試験が終了、その強度が算出されます。

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指定袋の縦横それぞれからダンベル状の試験片を打ち抜き(左)、
引張圧縮試験機で試験を行います(右)

センターでは、家庭ごみの指定袋4種類(特小~大サイズ)、プラスチック資源指定袋の3種類(小~大サイズ)の強度試験を行っています。日常生活で、重量のある家庭ごみやかさばるプラスチック資源を入れても指定袋が破れにくいのは、定期的な検査で仕様に達する強度が保たれていることを確認しているからなのですね。

環境に優しいバイオマスプラスチックを開発&社会実験を実施

最後にご紹介するのは、センターを含む産官学連携によって開発され、(株)コバヤシが製造しているバイオマスプラスチック「ReseamST®(レジームエスティー)」を使った容器です。

「ReseamST®」は、原料にでんぷんを60%配合した新素材です。従来のでんぷん複合材料は成形が難しいとされてきましたが、「ReseamST®」はプラスチック材料のようにさまざまな成形加工ができるのが特徴です。

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「ReseamST®」を原料にしたフルーツ容器。
底部分に植物性由来の素材のため、
小さくつぶして燃えるごみとして廃棄できる説明が入っています

「ReseamST®」を原料にした容器は、みやぎ生協がぶどうなど一部のフルーツを販売する際に用いられています。継ぎ目のないシームレスなデザインで、紙よりも高い強度。そしてプラスチックでも紙でもないさらっとした独特の質感です。もしかしてはじめてこの容器を手に取った人は、見慣れぬ材料を排出する際に「家庭ごみとして出すのか、それとも雑がみか、プラスチック資源か?」と戸惑うかもしれません。

「この容器は排出の際は、家庭ごみとして出します。紙のように丸めて廃棄できるので、ごみの減容化に貢献します。何よりプラスチックの配合が少ないのでCO2排出抑制にもなるし、焼却灰も出ないので最終処分量の低減にもつながります」(遠藤さん)。

またセンターでは、「ReseamST®」を使った容器が市場に出回った場合を想定し、東松島市と協働で容器の回収や再利用に関する社会実験を4カ年かけて行ってきました。

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「G7仙台科学技術大臣会合」で使用された「むすび丸」のイラストが入った皿(左)と、アップサイクルされた植木鉢(右)。
陰影でデザインを表現し着色を控えることで、再加工時の不具合や物性的な劣化を抑えることができます

「東松島市のイベントで使われた容器を回収して洗浄し、資源として再利用できるよう事業者とともに取り組んできました。また2023年に仙台市で行われた「G7仙台科学技術大臣会合」の歓迎イベントの際、東北各地の郷土料理を取り分ける皿として使ってもらいました。使用後に回収したものは、植木鉢にアップサイクルして別なイベントで来場者にお配りしました。今後は「ReseamST®」を使った容器の普及啓発に取り組みながら、使用規模が拡大した際の循環の仕組みも再構築していきたいです」(佐藤さん)。

金型製作から指定袋の試験分析、新素材の開発と社会実験まで、幅広く私たちの暮らしに関わっているセンターの取り組み。技術的な支援はもとより、新事業創出や商品開発のアイデアワークショップ、知財ビジネスに関するセミナー、AIやIoTの活用体験会などのイベントも実施しています。新しい事業を始めたい、ものづくりで困っている、そんな時にはきっとセンターが心強いサポーターになってくれることでしょう。

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取材協力:宮城県産業技術総合センター