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アート作品のようにデータを“鑑賞”する体験が、環境課題を考えるきっかけになる~WOW「InForms」の取り組み〜

東京、ロンドン、サンフランシスコ、そして創業の地である仙台に拠点を置き、多様な映像表現で作品やプロダクトなどを制作するビジュアルデザインスタジオ、WOW(ワウ)。誰もが知る有名メーカー・ブランドのビジュアルデザインから、東北の郷土芸能をテーマにしたインスタレーションまで、最先端テクノロジーを用いてこれまでにない表現や世界観を創出しています。

2023年9月、WOWのオリジナルプロジェクトとして、データをアート作品のように美しい造形で表現する『InForms(インフォームズ)』が発表されました。キービジュアルで提案されたのは、世界のレアメタル産出量を題材に、各鉱物をイメージした「質感」とともに表現した『InfoTexture(インフォテクスチャー)』。そして、国や地域の人口分布(人口ピラミッド)を題材に、データを「造形要素」ととらえて表現した『InfoSculpture(インフォスカルプチャー)』の2つの手法です。どちらも美しさが強く印象に残るだけでなく、その形状を通してデータの特徴を“感じる”ことができ、発見や思考、対話を促す経験を得ることができます。

『InForms』のキービジュアルでは「レアメタル」「人口分布」を題材としていましたが、新たな題材としてごみの減量やリサイクルなどのデータを可視化することで、環境課題に対して議論が活発化し、課題解決の一助になるのではないだろうか?今回はその可能性を探るために、WOWのプロデューサー 佐伯真一さん、アートディレクター/デザイナー 加藤咲さん、ディレクター/プログラマー 船津武志さんにお話をお聞きしました。

左より、ワウ株式会社 プロデューサー 佐伯 真一さん、アートディレクター/デザイナー 加藤 咲さん、
ディレクター/プログラマー 船津 武志さん

―――『InForms』プロジェクトに取り組んだ経緯について教えてください。

船津さん

「『InForms』は、外部の報道機関に所属するクリエイターとコラボする話からスタートしました。テレビやウェブメディアでは情報をコンパクトに整理して伝えますが、そことは少し異なるアプローチをして、データを見た人が何かを考えるきっかけになったり、何かが印象に残って後から反芻したりできるようなデータの見せ方をしたいと考えた時に、WOWが普段取り組んでいるビジュアルデザインが活用できるんじゃないかと思って企画をスタートさせました。」

―――データの視覚化といえば、インフォグラフィックスがあります。データや情報を図やイラストで分かりやすく伝えるためのものですが、『InForms』はインフォグラフィックスとは全く異なる印象を受けました。どのような違いがあるのでしょうか?

船津さん

「報道を例にすると、インフォグラフィックスは、記者やメディアの方など、データを介して何かを伝えたい人がその情報を正しく伝えるためにデータをデザインします。私たちはこれを『伝えるための視覚化』と呼んでいます。一方で『InForms』は、大きなトピックがあって、それに関するデータを大きく削らずにビジュアルに落とし込んでいます。そこから何が伝わるかは見る人の解釈に委ねるといった、考える余白のあるデザインにしています。これを『創造のための視覚化』と呼んでいます。」

WOWが手がけたインフォグラフィックスの事例のひとつ「RunGraph(ラングラフ)」。
スマホやGPSアプリで記録したランデータを、好みのテンプレートでビジュアライズできるアプリです。

―――『創造のための視覚化』の手法として、『InfoTexture』『InfoSculpture』という手法が示されました。この2つの手法について教えてください。

加藤さん

「『InfoTexture』は、データが現実世界で持っていた「質感」を、データ可視化の要素に取り込んだ手法です。まずはデータを見る人に興味を持ってもらうために、見た目が美しくあることが大事だと考えました。そこで多くの人が共通して美しいと思えるものとして鉱石というテーマに目をつけ、最終的に鉱石のような質感のあるグラフを作っていきました。」

【画像をクリックすると動画が再生されます】
2022年の世界のコバルト国別生産量(MT)を『InfoTexture』でグラフ化したキービジュアル。各国の生産量が鉱石の質感を持ったグラフで表現されています。グラフ上の鉱石の大きさは、実際の生産量と相対的に同じ比率で表しています。

加藤さん

「制作の際に心がけたのは、データに嘘をつかない、ということです。キービジュアルでは、鉱物のような状態からグラフになって、それが集合して1つの形状になるまで一連の流れをシームレスにつなげました。ビジュアルを優先して都合よく数値を変えることのないように、最初から最後まで同じ比率であることを伝える表現を行いました。」

―――もう一つの『InfoSculpture』はどのような手法になりますか?

船津さん

「『InfoSculpture』は『InfoTexture』よりも大規模なデータを扱っています。大規模なデータを見せる時は内容が把握しやすい「型」のようなものがあるのですが、そこを逸脱して、データからどんな造形が生まれるかを探索しました。そのような視点で試作した造形の中から、今回の映像では、美術館の展示台に飾られる彫刻作品のような見せ方で収まりのよい形状を選抜しました。」

『InfoSculpture』では、世界人口の変遷を「Pyramid」「Shell」「Brick」「Fur」という4つの造形を用いて表現。
キービジュアルでは、それらの造形がまるでオブジェのように並び展示される様子を見ることができます。

佐伯さん

「元データは世界の人口統計データ100年分で、Excelで400万行分のデータを読み込んだ造形物になります。そういった統計の数値を羅列した一覧を見ても理解に時間がかかりますが、それをビジュアルに落とし込んで見せることでそのデータが実感できるし、新たな視点が浮かび上がったり、議論の出発点になったりすると思いました。」

船津さん

「このプロジェクトを通して発見できたのは、データを美しくデザインすることによって、データを見る行為がアート作品を鑑賞するようなプロセスに変わることです。そうすることによって、データの対象について考えるきっかけになったり、印象に残ったことを持ち帰って後から思い返してみたりすることにつながると思いました。」

―――キービジュアルでは「レアメタル」と「人口分布」を題材としていますが、たとえば多くの生活者にごみの減量やリサイクルについて考えたり議論を深めてもらったりしたい時に、『InForms』にはどのような活用の可能性があると思いますか?

加藤さん

「ジャストアイデアですが、たとえば家庭ごみの量の推移や、目標に対してどれだけ減っているか観察できるサイトを作れるとおもしろい。また最近は脱プラスチックの動きがありますが、品目別に排出量を分けて、さらにその増減とどう連動しているかを調べると、新たな発見があるかもしれない。」

船津さん

「『InfoTexture』は見えないモノ・コトを体験できることが強みなので、たとえば排出されたごみがたどる経路を表現することもできます。あとは実際の排出量をデータとして活用して、大量のつぶれたペットボトルを素材にCGデザイン的な視点で映像を作ってみたりすることもできます。リサイクルの発展につながるといいですね。」

佐伯さん

「仙台市の家庭ごみに関するデータはたくさんあると思うので、『InForms』を介せば“仙台モデル”のような、仙台だからこうだっていう特徴が何か見つけられるんじゃないかと思うんですよね。」

加藤さん

「仙台市では全国ではじめてプラスチックを一括回収して地域循環させる取り組みを始めたということですが、そうした自治体ならではの取り組みは、可視化した時に非常に印象的なものになると思います。取り組みの前後や他の地域などと比較すると、違いが出ておもしろいと思います。」

取材協力:ワウ株式会社