小中学生の思いがこもった折り鶴が世界中でここにしかない再生紙に!
仙台市立の小学校、中学校、仙台青陵中等教育学校、鶴谷特別支援学校に通う児童生徒は、毎年必ず折り鶴を一人一羽折っています。発端は、東日本大震災が起こった2011年。地震から5ヶ月後の仙台七夕まつりで、約8万8,000人の児童生徒が折った折り鶴による吹き流しを飾り、国内外からの復興支援に対する感謝と復興の証を示しました。それから毎年、児童生徒による手作りの鶴の吹き流しが飾られるようになり、現在では仙台七夕まつりのシンボルとして親しまれるようになりました。
七夕飾りの製造や七夕飾りに使う紙などを扱う鳴海屋紙商事株式会社では、この取り組みが始まった2011年から材料の手配などの支援を行っており、2017年からは飾り終わった鶴や花紙を、児童生徒たちの思いや祈りとともに再び紙としてよみがえらせる活動にも取り組んでいます。この再生紙は『仙臺七夕祈織(せんだいたなばたいおり)』と名付けられ、児童生徒たちの卒業証書や通信簿の台紙、さらに企業・自治体・団体などの名刺やプロモーショングッズなどとして活用されています。
この取り組みに開始当初から関わる鳴海屋紙商事 七夕イベント課の鳴海幸一郎課長に、取り組みの詳細や児童生徒たちに寄せる思いをお聞きしました。
―――鳴海さんは、2011年から復興折り鶴飾り制作(児童生徒による故郷復興プロジェクト)に協力していますね。
鳴海さん
「震災直後、当社は被災して社屋が全壊判定を受けました。加えて、仙台七夕まつりの準備は毎年春彼岸頃から材料の仕込みに入りますが、物流が寸断されてやっと動き始めたのが5月連休頃でした。そうした状況の中で、ある小学校の校長先生からプロジェクトの話を聞きました。当時は普通の折り紙も入荷できないような状況でしたが、鹿児島県薩摩川内市の製紙工場から連絡が入って、竹で作った封筒用の紙があるから良かったら使ってほしいと、おそらく日本海側を通って送っていただいたんです。その紙を使って子どもたちが鶴を折り、各校からPTAの方々が鶴を繋ぎ、学校関係者が整え、藤崎さんが掲出協力して吹き流し飾りの形になりました。おかげで七夕まつりに約8万8,000羽の鶴の吹き流しを飾り、子どもたちの感謝の気持ちを伝えることができました。」
―――大変な状況の中で、関係する皆さんが力を合わせて鶴の吹き流しを作ったんですね。
鳴海さん
「最近の七夕飾りは業者発注で仕込むことが多くなってきているのですが、もともとはそのお店の方が手作りするものでした。そういう意味では、子どもたちの折り鶴吹き流し飾りは本来の流れを汲む完全な手作りです。鶴をつなぐ糸と、鶴と鶴の間隔を固定するストローの切り出し、それを全部つなぎ合わせて花紙で飾ったくす玉と合わせて完成します。」
―――その吹き流しを七夕まつりで飾った後、再生紙にする取り組みが2017年から始められましたが、どんなきっかけでしたか?
鳴海さん
「2016年までは、まつりが終わって当社に戻ってきた吹き流しはお焚き上げをしていました。私は市内の小中学校などに出向いて仙台七夕の歴史や文化などの話をする取り組みをしていますが、その時に子どもたちには“みんなが折った鶴はお焚き上げをしているから、思いは成就しているからね”と伝えていたんです。そんなある時、解体された吹き流しの中に一人の生徒のメッセージが弊社代表の目にとまりして。」
鳴海さん
「“あの日小学二年生だった私は中学三年生。笑顔と共に生きています。”この生徒はプロジェクトの意味を熟知した上で参加していて、この年度に、このプロジェクトを卒業するということが分かりました。これを見て、鶴を折った子どもたちが全員七夕まつりで飾られた様子を見ているわけではないだろう、あの鶴は何だったんだろう?と思っている子どももいるはず・・それなら何とかあの時の鶴がこうなったよと、子どもたちに返すことはできないだろうかという思いが会社の中で湧き立ち、相談して、それなら再生紙にして子どもたちに返してみよう、ということになりました。」
―――生徒さんの言葉がきっかけだったのですね。折り鶴からどのように再生紙が作られますか?
鳴海さん
「吹き流しから針金、ストロー、糸などの部材を丁寧に外して、鶴と花紙に分別します。それを静岡県の製紙工場に運搬し、パルパーと呼ばれる機械に投入してほぐし、ごみなどを取り除いて再生紙に仕上げます。この紙は折り紙と花紙の色が模様のようについていて、1枚たりとも同じデザインがないんです。これって偶然だけど、子どもの表情や性格のように十人十色だな、と思っています。世界に1枚だけの折り鶴再生紙なんです。」
オレンジや黄色の色が付いている左の紙が2017年版、青や緑の色が付いている右の紙が2018年版の
『仙臺七夕祈織』です。この紙の収益金は、再生に関わる費用と材料の仕入れなどを除いて
仙台市教育委員会に寄付され、教育活動支援として折り紙購入代などに使われています。
―――繊維を漉き込んだような模様がそれぞれ異なりますね。2017年と2018年の紙では、色も違います。
鳴海さん
「現在は2017年版と2018年版の再生紙がありますが、2018年版からは吹き流しの解体作業を児童生徒の職場体験の場にする取り組みを始めました。2018年は宮城野中学校、東宮城野小学校、尚絅学院高等学校の児童生徒と学校関係者、保護者の皆さんに協力いただきました。解体した後は、当社で職場体験した宮城野中学校の生徒代表2名が静岡の製紙工場に行って、再生紙づくりの見学も行ったんですよ。」
―――鶴を折るところから解体、再生紙づくりまで、生徒さんの教育の場が広がりますね!
鳴海さん
「特に解体作業に関しては、情操教育として非常によいと評価をいただいています。子どもたちは解体作業を通して、後片付けをする、モノを大事にする、ごみを分別するなど、いろいろな気づきを自ら発見しているようです。」
鳴海さん
「仙台七夕は、約450年前に伊達政宗公が人間形成成就のための大切なお祭りとして京都からお持ち帰りになったのが起源とされています。七夕飾りの七つ飾りの一つ「くずかご」には、整理整頓や倹約の心を育む意味が込められていますが、こうした七夕に込められた願いが、七夕にまつわる取り組みを通して子どもたちにしっかり伝わっているんじゃないかと感じています。」
―――鶴の吹き流しや再生紙づくりを知ることが、私たち大人にとっても仙台七夕を改めて見つめ直す良い機会になりそうですね。ところで、今年掲出された吹き流しはいつごろ再生紙になりますか?
鳴海さん
「今年いっぱい児童生徒の手で解体作業を進めて、来年春頃から再生紙にする作業を始めます。最短で年明けくらいには完成すると思います。『仙臺七夕祈織』は、児童生徒の卒業証書をはじめさまざまな用途に使われています。もしかすると、今年子どもたちが折った折り鶴が、来年度卒業を迎える子どもたちの手元に戻ってくるかもしれませんね。」
取材協力:鳴海屋紙商事株式会社