考えよう、ごみのこと

「定禅寺通、資源とビジネスのゆくえ ~グローバルの動向、ストリートの実践~」イベントレポート(前編)

 2024年12月7日(土)、仙台市青葉区の交流拠点『IDOBA』を会場に、ごみの減量化や再資源化について考えるイベント「定禅寺通、資源とビジネスのゆくえ ~グローバルの動向、ストリートの実践~」が行われました。

 仙台市では2023年、全国に先駆けてプラスチックの一括回収・リサイクルが始まりました。市民の皆さんも、「プラスチックは分けて赤い指定袋へ」という分別の意識が定着してきているのではないでしょうか。

 プラスチックのリサイクルに関しては、今、世界で、地域で、さまざまな取り組みが進められています。このイベントでは、プラスチックの話題を中心に、資源の循環に関する世界の最新動向、国内での取り組み、さらに定禅寺通エリアで展開されたプロジェクトについての紹介がありました。実際の取り組みを推進した登壇者の話をきっかけに、参加者からさまざまなアイデアや意見が飛び交い、活発な交流が生まれました。当日の様子を前後編で振り返ります。

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 会場の『IDOBA』は、定禅寺通沿いに建つビルの5階にあります。折しも定禅寺通では、本イベントの前日からイルミネーションイベント「SENDAI光のページェント」が始まったばかり。イベント開始の18時ちょうどには、会場の窓から美しいイルミネーションが点灯する様子が見られ、歓声と拍手が沸き起こるなかイベントがスタートしました。オープニングの髙橋新悦副市長による挨拶を皮切りに、環境・エネルギー経済学分野で研究を行う松八重一代教授によるミニレクチャーが行われました。その一部をご紹介しましょう。

第一部 ミニレクチャー「知ってる? グローバルの資源争奪、未利用資源活用の潮流」

講師:東北大学 大学院環境科学研究科 教授 松八重 一代氏

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松八重

 今世界では、環境に対して親和型の経済活動を行う、循環資源の利用を促進する、自然資本に対して注意を払う。こういったことが非常に大きなトレンドとなっています。

 グリーントランスフォーメーション、サーキュラーエコノミー、あるいはネイチャーポジティブなどの議論が進んでいて、こういったものに適用するビジネスでないとなかなか受け入れられない、という現状があります。

 特に欧州においては、DPP(デジタルプロダクトパスポート、製品のサステナビリティに関する情報を電子的に記録したもの)に関する動きが急速に進んでいます。循環資源や資源調達に関する透明性などがきちんとされてないものに関しては、欧州のマーケットでは売らせないという仕組みです。工業製品に関しては2027年、また衣料品は2030年を目途にDPPを要求する、あるいは義務づけると宣言されています。

 またTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)による提言によって、炭素だけでなく自然資本全般に関して、これからますます配慮が必要といわれています。

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 たとえばプラスチックに関して、日本におけるプラスチック資源の循環戦略では、2030年までにワンウェイプラスチックの累積25%排出抑制するとされています。また回収、再資源化を促進する必要性があり、そのためにもプラスチックの種類ごとの丁寧な分別が重要であるといわれています。

 世界に目を向けると、使いづらいプラスチックを積極的に使う取り組みが行われています。たとえば、海岸から50km以内の陸地に捨てられ海に流出する可能性がある「オーシャンバウンドプラスチック」が回収され、ハーマンミラーのチェアやバービー人形などの製品に使用されています。

 一方で、私たちはものづくりだけでなく、サービスの部分でも循環資源の活用を担う役割があると思っています。事例としてご紹介しますのは、「第16回エコバランス国際会議」での取り組みです。この国際会議は私が実行委員長を務めまして、運営にあたり、バンケットで使用するカトラリーの材料をポリスチレンに限定して使用後に回収して再資源化につなげる、未利用食材を積極的に活用する、自然資本に対して配慮型のカーボンクレジットを調達して会議体で発生する炭素を最小化するなどの取り組みを行いました。

 こうした実践を通して、ものづくりの現場だけではなく、飲食や宿泊といったサービス産業でも、責任ある調達や資源循環、未利用資源の活用拡大というテーマは非常に重要であると皆様にお伝えしたいと思っています。

第一部 キーノートトーク 「ケミカルリサイクルが生み出す新たなビジネスの可能性~デンカグループのケミカルリサイクル~」

講師:デンカ株式会社 執行役員 ポリマーソリューション部門長 原 敬氏

聞き手:
東北大学 大学院環境科学研究科 教授 松八重 一代氏
丸紅株式会社 環境ビジネスリーダー 松浦 裕一郎氏

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デンカ株式会社 執行役員
ポリマーソリューション部門長 原 敬氏

 次のキーノートトークで登壇したのは、総合化学品メーカーとして知られるデンカ株式会社でプラスチック事業を統括する原 敬さんです。デンカではスチレン系樹脂(ポリスチレン、ABSなど)などのプラスチック事業を展開するなか、2024年3月、千葉県市原市に使用済ポリスチレンを回収してケミカルリサイクルを行う工場を稼働させました。
 
 そこで原さんからケミカルリサイクル工場とデンカがめざす循環型社会に関するお話を伺うとともに、松八重教授と丸紅株式会社の松浦 裕一郎さんを聞き手に迎え意見を交わしました。

 まずは簡単にデンカのスチレン事業について説明しましょう。原料のベンゼンやエチレンから、ポリスチレンの原料となるスチレンモノマーという液体を作ります。そこからペレット状のポリスチレンを作り、シート状にした後に成形します。ポリスチレンの国内需要は約60万トンで、その約60%が食品容器に使用され、多くは使い捨てでそのまま廃棄されている実態があります。このポリスチレンの廃棄抑制という課題に立ち向かうのが、今回お話するケミカルリサイクルプラントです。

 リサイクルの手法には、廃棄物を焼却して燃料とするサーマルリサイクル、廃棄物を製品の原料として再利用するマテリアルリサイクル、廃棄物に化学的な処理を施すケミカルリサイクルがあります。

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 プラスチックにおけるマテリアルリサイクルでは、廃棄物に熱を加えて再生プラスチックを作りますが、新しいプラスチックと同等の品質には戻しにくい問題があります。一方で私たちのプラントで行うケミカルリサイクルは、ポリスチレンだけを熱分解して精製することで、原料のスチレンモノマーに完全に戻すことができ、バージン原料と同じように再びポリスチレンを生産することができます。これによって、ポリスチレンは資源循環に非常に適した素材であることがご理解いただけると思います。

 この取り組みを通して、デンカグループでは循環型社会の一翼を担っていきたいと考えています。しかしながら、1つの会社だけで大きな資源循環のサークルを作ることは事実上不可能ということが分かってきています。今後の将来像として考えられるのは、非常に大きなアライアンスを組むということです。政府・自治体・企業・業界団体などが参画して、社会システムそのものを作っていくことが必要だと考えています。

 その実証の場として、仙台市様との取り組みを紹介します。2024年9月27日・28日に行われたゼロカーボンPRイベント「JOZENJI STREET Zero-carbon Challenge」(「SENDAI SDG’s Week 2024」)への参画です。当日は、イベントで排出されるトレー、カップ、カトラリーなどを分別回収して再度プラスチック容器に戻す実証を行いました。市民の皆様にもご協力をいただき、ありがとうございました。

 仙台市様とは今後色々な協議を重ねたいと考えています。たとえば、仙台市内の宿泊施設で利用いただける、ポリスチレンでできたアメニティの回収の仕組みを作り、ケミカルリサイクルプラントに導入して再度アメニティとして宿泊施設で利用するというような取り組みができないかと考えています。ケミカルリサイクルで循環型社会を構築していくことで、関連する新たなビジネスが次々と創出される世の中を創り上げていきたいと考えています。

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丸紅株式会社 環境ビジネスリーダー
松浦 裕一郎氏

松浦

 お話をお聞きして、御社が技術で資源循環を実現する重要な役割を担っていると感じました。ケミカルリサイクルを社会実装する場合、市民の皆さんや行政からどのような協力を得ることが必要だと思いますか。

 現在、千葉県市原市で実際に使用済ポリスチレンを回収してケミカルリサイクルを行っていますが、実装のための1つのキーポイントは「きれいなごみを集める」ということです。今の段階では、ポリスチレンが非常に高い割合で集められるような回収網を作っていただくことが重要だと感じています。
 
 もう1つは、リサイクルで作ったものは多少価格が高くなります。ですから、高くなってもそれを受け入れてもらえるブランディングをすること、あるいは「私はこれを循環型社会の実現のために買うんだ」という社会全体の機運醸成も必要だと思います。

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松八重

 「ちょっと高いけどそれを買う」を実現する1つの方法として、サービスを消費するなかで循環資源を使っている、それがサービスを消費する時の価値になるという仕組みもあると考えます。たとえば観光サービスのなかでも修学旅行などの教育旅行では、勉強しながら観光サービスを消費するので、そこで提供された循環資源は勉強の材料にもなります。先ほど「非常に大きなアライアンスを組む」というお話がありましたが、産業ごともありながら、より裾野を広げたアライアンスを組むことも必要ではないかと考えます。

 おっしゃる通りだと思います。私たちはこれまで素材産業のなかでB to Bでビジネスをしてきましたが、この手法だけでは課題解決は難しいと考えています。場合によってはコ・ブランド(業界の異なるブランドとの協業)によって、B to Cを実現するという選択肢も検討していきたいと考えています。

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 松八重教授のミニレクチャー、原さんのキーノートトークによって、参加者の皆さんは資源循環の最新動向やケミカルリサイクルの実態などに触れ、登壇者の方々とともに循環型社会のあり方について考えをめぐらせていました。

 後編では、休憩を経て行われた第二部のコミュニケーショントークの様子をお伝えします。