プラスチック

全国クリーニング生活衛生同業組合連合会理事・宮城県クリーニング生活衛生同業組合理事長 大久保 圭司さん

2022.12.6

 2022年4月1日に施行された「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラスチック資源循環促進法)」により、クリーニング店で使用しているプラスチックハンガーと衣類用カバー(ポリ包装)の2品目が同法の対象となる「特定プラスチック使用製品」に指定されました。

 これを受けて、全国クリーニング生活衛生同業組合連合会(全ク連)と一般社団法人クリーンライフ協会が協力し、「ポリ包装等抑制分科会」を発足。プラスチックの使用量削減に向けたクリーニング業界の現状把握や対応等の協議を行いました。

 その結果、プラスチックハンガーは既に回収・リユース・再生原料による製品製造が進んでいること、ポリ包装は薄肉化が進んでいることが分かりました。これらの取り組みは行政による合同会議で「特定プラスチック使用製品の他の品目とは異なる優良モデル」として紹介され、他業界に先んじて、クリーニング業界の特定プラスチック使用製品の排出抑制が進んでいることが示されました。

 そこで今回は、全ク連の理事である宮城県クリーニング生活衛生同業組合の大久保圭司理事長にお話を聞き、クリーニング業界の先進的な取り組みについて教えていただきました。

全ク連理事・宮城県クリーニング組合理事長の大久保 圭司さん

―――今回は特定プラスチック使用製品に指定されたプラスチックハンガーとポリ包装の排出抑制に向けた取り組みについてお聞きします。まずは、プラスチックハンガーのこれまでの取り組みについて教えてください。

大久保さん
「ハンガーは、以前は針金製が主流でしたが、コストや廃棄の面で課題があってプラスチック製に切り替えられました。ハンガーを回収する取り組みは、プラスチック製が主流になった頃からすでに始められていました。」

―――ずいぶん早い段階からリサイクルが進んでいたんですね。ではポリ包装はいかがですか?

大久保さん
「ポリ包装もリサイクルを進めようとさまざまな取り組みを検討してきましたが、思うように実現できませんでした。2006年から数年にわたり自主回収システムを構築してリサイクルを進めようと検討しましたが、店頭でポリ包装を回収するのは法令違反にあたるので断念しました。各ご家庭でごみ袋として利用できないか検討しましたが、ハンガーを出す穴が開いているので用途に向かない。では簡易油化装置でポリ包装を油化してクリーニング工場のボイラー燃料とするのはどうかと検討しましたが、こちらも軽油引取税に抵触するので難しい、という結果になりました。しかしその間にポリ包装は18㎛から14㎛へと薄肉化が進み、1999年から2019年までの20年間で1枚あたり約20%の原料削減に成功しました。」

―――ポリ包装は、排出抑制に向けてさまざまな試行錯誤をされて現在に至っているのですね。プラスチック資源循環促進法が施行された現在、取り組みはどのように進捗していますか?

クリーニング店の特定プラスチック使用製品の排出抑制に向けて、
クリーニング業界の取り組みをまとめて店頭掲示ポスターを作成・掲示し、取り組みの周知に努めています。

大久保さん
「業界団体の調査では、プラスチックハンガーの回収率は50%を超え、回収したプラスチックハンガーのリユース率は60~70%となっています。また再生原料使用率は約90%となっています。」

プラスチックハンガーの資源循環図。クリーニング店で回収されたプラスチックハンガーのうち、
破損のないものは消毒してリユースします。リユースが難しいものは再資源化され、
再びプラスチックハンガーとなってクリーニング店で使用されます。

大久保さん
「ポリ包装に関してはプラスチックハンガーと少し状況が異なります。大前提としてポリ包装は必要不可欠なもので、なくすことはできないと私たちは考えています。たとえば、スーパーマーケットの生鮮食品売り場で肉や魚を販売していますが、その食品トレーの上にラップがしてありますよね。このラップは衛生と品質の保持のために必要不可欠なものですが、クリーニングのポリ包装も同じなんです。清潔にきれいに仕上げた衣類をクリーニング店からご家庭に持ち運ぶ間、衛生保持と仕上げた時の品質が損なわれないようにするために必要不可欠なものです。この点は、消費者の皆様にもご理解いただきたいと思っています。」

1999年に厚み18㎛だったポリ包装は、2019年には14㎛まで薄肉化されました。

大久保さん
「加えてクリーニング後の衣類をお客様にお渡しする時は、お客様と店員が相互に仕上がりを確認することから、ポリ包装には透明であることが求められます。透明なポリ包装は、現在の技術ではバージン原料を使用した製造が一般的で、現状ではプラスチックハンガーのようなリユース、再資源化にも不向きです。

そのためポリ包装の排出抑制の取り組みとしては、今後一層の薄肉化への挑戦と、お客様1人分の衣類をまとめて包装する「一客包装」を進めているところです。また、ポリ包装等抑制分科会では、クリーニング事業者が自店のポリ包装の使用量を把握・記録するためのポリ包装使用量管理システムを作成し、クリーンライフ協会のホームページで公開しました。このシステムを活用することで自店の状況を把握し、さらなる削減への取り組みを進められます。」

―――その分科会の取り組みの一環で、2021年に消費者を対象にした「クリーニングのプラスチックハンガー、ポリ包装資材に関する調査」を行っていらっしゃいますね。その結果から、消費者にとっても「ポリ包装は必要である」という意識があり、「一客包装」に対しては協力可能な方が多いと感じました。

ポリ包装の有無に関して、「あった方が良い」と答える方が過半数を占めました。
また一客包装には多くの消費者が理解を示していることが分かりました。

※「クリーニングのプラスチックハンガー、ポリ包装資材に関する調査」結果より抜粋

大久保さん
「一客包装に関しては技術的には可能ですが、包装をかける機械の仕様変更や導入コスト等の課題があるので、検討材料の1つとして可能性を模索していく予定です。」

プラスチックハンガーに関しては、多くの消費者が回収・リサイクルに積極的な意識を持っていることが分かりました。

※「クリーニングのプラスチックハンガー、ポリ包装資材に関する調査」結果より抜粋

―――一方で、アンケートの調査結果では「プラスチックハンガーは不要・返却してよい」との回答が多かったですね。

大久保さん
「こちらは消費者の皆様の意識が高まっていると感じられる結果だったと思います。私たちも現在50%程度の回収率を将来的に80%程度まで上げていきたいのですが、そのためには消費者の皆様にお願いしたいことがあります。」

―――どんなことですか?

大久保さん
「リサイクルをより一層促進するために、クリーニング店にプラスチックハンガーをお持ち込みいただく際は、そのクリーニング店で使用されているもののみお持ちいただくようお願いします。せっかくプラスチックハンガーをお持ちいただいても、他店等で使用しているものが混ざっていると、規格や素材が統一されないため再利用できなかったり、あるいは再資源化事業者に引き取ってもらえなかったりする可能性があります。クリーニング店にプラスチックハンガーを持ち込む場合は、ぜひご利用しているクリーニング店のものだけをお持ち込みください。」

自店以外で使用されている、あるいはセロハンテープやウレタンが付いているプラスチックハンガーはリユースできない、
または再資源化が難しいため、持ち込みは控えましょう。

―――プラスチックハンガーのリユース・再資源化は、クリーニング店とお客様が協力して高めていく取り組みなのですね。消費者も一人ひとりが意識していくことが大事ですね。

「よろしくお願いいたします。私たちは、クリーニング業はプラスチック排出抑制以外にも環境に優しい側面を持つ業種だと考えています。なぜなら、クリーニングは汚れた衣類を再び着用できるようにする“リユース業”であるからです。地球環境を守る動きはこれからもますます加速するでしょうし、我々に求められる環境保全対策も厳格になっていくと思います。ですが私たちはそうした社会的使命に対応して、一層取り組みを強化していきたいと考えています。」

画像・データ提供:全国クリーニング生活衛生同業組合連合会、一般社団法人クリーンライフ協会