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自然を「制御する」のではなく、いかに「向き合う」か くまっこ農園 渡辺重貴さん
自然を「制御する」のではなく、いかに「向き合う」か
くまっこ農園 渡辺重貴さん
冬越し野菜の美味しさを、知らなきゃモッタイナイ
日差しが暖くなり始めた3月上旬。しかし山に囲まれた秋保の畑は、いまだ数十センチの雪で覆われていました。ここ「くまっこ農園」では有機・無農薬栽培で育てた野菜を、主に宅配で直販しています。播種・苗作りから手掛け、1.6ヘクタールの圃場で育てる野菜は全体で約80種類にも及びます。
オーナーの渡辺さんが積もった雪を掘っていくと、やがて大根の葉が現れました。実はこの大根、12月上旬に一度掘り上げて植え直したもの。「縦に植えたままにしておくと凍ってしまうので、横に寝かせて植え直すんです。こうすると雪がマイナス0度~1度をキープし、雪解けまでみずみずしい大根が楽しめます」と渡辺さん。実は雪の下で冬越しをさせるメリットは、収穫期の長さだけではありません。寒さに合うことで野菜が甘さを蓄えることは葉物野菜でよく知られていますが、実は大根でも同じ。辛味がマイルドになり甘さが増した“雪の下大根”は、雪の前に収穫したそれとはまた違った美味しさがあります。
渡辺さんのおすすめの食し方は「塩もみ」。「薄切りしたものを軽く塩もみすると、みずみずしさと甘さをストレートに感じられます。サラダ感覚でぜひ楽しんで欲しいですね」と渡辺さんは笑顔を見せます。
有機農業に魅了され、はじめた農園
渡辺さんは、もともと国際NGOに参加し、インドネシアで有機農業を指導していたという異色の経歴の持ち主。自身も有機農業に対する知識を深めていく中で「いつか自分で農業を」という思いが湧き上がり、農場を構えるにいたりました。
ひと口に「有機栽培・無農薬」と言っても、そのアプローチは多種多様です。渡辺さんが大切にしているのは健やかな土作り。オガクズを固めたシイタケの廃菌床や、収穫後のモロヘイヤの茎などをすき込むことで、土中の有用微生物を増やし、「水持ち・肥料持ちがよく、水はけがいい土」にしていきます。
タイミングに応じて撒く有機肥料は、作物の栄養としてだけでなく、土中の微生物のエサとしても働きます。魚かす、馬ふん、牛ふん、鶏ふん…どの材料で、どの栄養素が増えるかをしっかり分析しつつ、効かせるポイントを定めながら肥料を施していきます。
ときにはおおらかに「おすそ分け」
有機栽培の敵は病気と害虫。くまっこ農園では「作物を植える畝(うね)と畝との間隔を空け、風通しをよくする」「苗を定植する前に、害虫の卵や病原菌ごとバーナーで畦(あぜ)焼き・土手焼きする」など、さまざまな手を講じていますが、意外だったのは「実は出荷できないほどの“虫食い”は、全体の10パーセントぐらい。だからそれを見越して作付けしていますね」という話。「収穫時は虫食いばかりが目について“ああ……”と頭を抱えたくなりますが、冷静に計算すると9割ぐらいは無事なんです。あと虫食いの葉物はそのまま放っておくと、害虫が成虫になっていなくなる。その後に出てきた葉を収穫する、というケースもありますよ」。神経質に「対策する」というより、「おすそ分けする」気持ちで虫や病気とつきあっていくおおらかさが、一番の秘訣です。
「それよりもイノシシやサルなどの獣対策の方が大変(笑)。最近はどの動物がどんな品種を好むかもわかってきたので、いろいろ試しているところです」。コントロールできない自然と向き合い、いかにつきあっていくか。野菜づくりは単なる「生産」にとどまらない、姿勢を問われる仕事であることを実感させられました。