豊かな原体験となる味を
ボンディファーム
野菜を育てる力がある土は「美味しい」
ハウスをのぞくと、色鮮やかに茂った下草が目に飛び込んできました。その間に主役のトマトがちらりと顔をのぞかせます。雑草をきれいに刈り取った畑を見慣れていると、少々面食らう光景。しかしこれこそが、ボンディファームが取り組み続けてきた「自然農法」の姿なのです。目指したのは「力のある土」。化成肥料を使用しないのはもちろん、作付け前に下草を軽くすき込む程度で、不必要な耕耘も行いません。また農家は1つの圃場で、できるだけたくさんの作物を作り、収量アップを狙うものですが、ここでは土の様子を見ながら「休ませる」、休耕期間を設けています。連作障害対策はもちろんですが、これこそが土の地力アップに必要な工程。その間、下草の根や葉が朽ちて土中の微生物を養い、その微生物が生む栄養が土を富ませるのです。
営農を始めた20年前、代表の鹿股国弘さんは土の状態を知るため「土をなめ、下草をかじった」そう。こちらが驚いていると、「最初はエグくて美味しくないけれど、不思議なことに“土の力”を上げていくと土も草も美味しくなるんだよ。今は周囲の空気の匂いや下草の様子をうかがうだけで、土の調子を把握できるようになったけれど」と、こともなげに笑いました。
食べなきゃモッタイナイ「自然農法のトマト」
作付けしている品種はイタリアントマトの「シシリアンルージュ」と中玉の「ミディトマト」、大玉の「桃太郎」赤・黄それぞれの計4種類。収穫は6月下旬からスタートし、7月にピークを迎え、9月下旬まで続きます。
ボンディファームでは通年、200品目にわたる作物のほとんどを露地栽培で作っていますが、トマトと一部の野菜だけは「人間が少し助けた方がよく育つ作物だから」と、ハウス栽培をしています。とはいえ、機械による水や温度のコントロールはしません。天気予報をみながらハウスのビニールを開け閉めし、最低限の水で育てています。ハウスは全部で3棟ありますが、そのうち年内稼働させるのは1棟だけで、残りの2棟は翌年以降の作付けに控え、しっかりと休ませます。
「もともと乾燥したアンデス山地の作物であるトマトは、水を吸う力が強すぎる。だからざぶざぶ水遣りすると、その分味の薄いトマトになってしまう。枯れない、ギリギリの線を狙って手を貸すのが大切なんだ」と鹿股さん。誘引し、余計な脇芽を欠き、伸びすぎた下草を軽く刈り取る以外は、基本雨と土の力に任せます。こうしてできたトマトは、心地よい酸味と甘さを口いっぱいに感じさせる、味の濃いものとなります。
人としての感度を上げる「豊かな原体験」を
美味しいトマトの味わい方を、鹿股さんに聞いてみました。「シシリアンルージュは火を入れるとコクが出る品種。オリーブオイルを引いて、弱火でじっくり焼くとすごく濃厚な味わいになるよ。ほかのトマトはジュースにするのが一番。岩塩とレモンを少しだけ加えて、オリーブオイルをひとたらしすると、甘さがぐっと引き立つんだ」。
いまや「ボンディファーム」の名は、ひとつのブランドとなりました。「どこよりも美味しい食材」を求める個人・飲食店からの引き合いは増える一方で、県内はもちろん、全国各地と取引が生まれています。その野菜づくりのノウハウを、鹿股さんは一切隠すことはせず無償で開示。また一般の農作業体験希望者も同様、随時受け入れしています。鹿股さんは言います。「人間、原体験がその後の人としての感度を決める。だからできるだけ多くの人に本当の野菜の美味しさを味わってほしいし、そのきっかけが必ずしもボンディファームである必要もないからね」。
営利の先に社会を見据え、営む農業。地道な作業一つひとつに、その広い視野に基づく思想が息づいていました。