2021.01.08
「プラスチックごみ問題」とひと言で言っても、それはあまりにも大きく多層的で、自分ひとりの行動が、どれほどその問題改善に役立つのだろうかと、無力感にとらわれることもあるかもしれません。
でも、一人ひとりの行動が、いくつもいくつも積み重なれば、問題改善への大きな力につなげることができるのではないでしょうか。
自分の生活空間を心地よく整えたら、いつの間にか環境問題・プラスチックごみ問題の改善のための、かけがえのない一歩になっていた。そんな行動をサポートしてくれる身近な企業がありました。北欧スウェーデンで創業し、今や世界的なホームファニッシング*ブランドとなったイケアです。
*ホームファニッシングとは、キッチン用品や寝具、インテリア用品、家具など家庭用製品全般のことを表します。
魅力的な商品展開と同時に、プラスチックごみをはじめとする環境問題やSDGsに向けた活動においても、独自のビジョンを持って世の中をリードし続けるイケア。今回はIKEA仙台のマーケットマネジャー小田切大さんにお話をうかがいました。
―イケアは、2020年1月、すでに世界中の家庭用製品への使い捨てプラスチックの使用を廃止したとうかがいました。
小田切さん
「はい。強度と耐久性にすぐれ、軽量かつ用途が広い上に低コストの素材であるプラスチックは、あらゆる場面で使われている反面、無責任に廃棄された使い捨てプラスチックは生態系に悪影響を及ぼします。
持続可能な素材である木材を使った紙製ストローがプラスチック製と同じ役割を果たせるとしたら、プラスチック製ストローは本当に必要でしょうか?
この考えを元に、イケアはホームファニッシング(家庭用製品)とフードサービス部門において使い捨てプラスチックを使用したアイテムを段階的に廃止しました。
使い捨てプラスチックと言うとまず思い浮かぶストローやカトラリー、コップ、プレート。イケアレストランやビストロで提供するそういった使い捨て容器は、リサイクル材またはFSC認証林*の木材を原材料とした紙と、サトウキビから取れる甘蔗糖(かんしょとう)など、人にも環境にもやさしい再生可能な資源を使用して製造しています。」
*FSC(Forest Stewardship Council®、森林管理協議会)は責任ある森林管理を世界に普及させることを目的とする、独立した非営利団体であり、国際的な森林認証制度を運営しています。FSC認証林は、FSCの責任ある森林管理の規格を満たした森林です。
―そして、今後さらに高い目標を掲げていますよね。
小田切さん
「2030年までに、イケア製品に使用するプラスチックを、再生可能な素材とリサイクル素材のみにすることを宣言しています。これはイケア全体で、最優先の課題と考え取り組んでいる目標です。」
―目標達成までの道のりは一筋縄ではいかないと思いますが、いかがですか?
小田切さん
「実際に簡単な取り組みではないですし時間はかかることですが、お客様はもちろんのこと、われわれ従業員、資源を供給している素材製造業者の方たち含め、みんなで取り組めば達成できると信じています。」
―イケアでは現在、どんな再生可能資源から作られたプラスチックを使用しているんですか?
小田切さん
「たとえば、PLA(ポリ乳酸)プラスチックです。トウモロコシやテンサイ、サトウキビなどの再生可能資源からつくられていて、安心して使え、リサイクル可能なプラスチックなんです。」
―PLAプラスチックを使った製品には、どんなものがあるのでしょうか?
小田切さん
「『HEROISK/ヘロイスク』と『TALRIKA/タルリカ』は、PLAプラスチックのみを使用したイケア初の製品シリーズです。電子レンジや食器洗い乾燥機にも対応していて便利です。 PLAプラスチックは子ども向けの製品や、食品と接触する製品など、安全基準の厳しい製品カテゴリーにも使用できます。PLAプラスチック製品は、ほかのプラスチック製品と同等の耐久性と安全性を兼ね備えていながら、環境への負荷は低く抑えられるんです。」
―形がシンプルで色がかわいいですね!他にも廃棄されたペットボトルをリサイクル素材として作る製品もあるとのことですが。
小田切さん
「1枚に廃棄ペットボトル6本を使用した『MEJLS/メイルス』というドアマットや、資源を供給している素材製造業者の方たちと共同開発したキッチン扉の『KUNGSBACKA/クングスバッカ』などがあります。60cm×20cmのキッチン扉の前部1つにつき500mlのペットボトル約25本分の再生PET樹脂が使われています。」
―いろいろな製品があるんですね。
小田切さん
「イケアがリサイクル素材や再生可能な素材を使用した製品を品ぞろえすることで、他社が追随する流れを作りたいと考えているんです。」
―ビジネスとして、他社の追随を許さないような戦略を、と考えるわけではないんですね。
小田切さん
「競合他社があった方が製品開発においても、よりお客様に満足いただくために切磋琢磨できると思いますし、イケアは常に業界をけん引するリーディングカンパニーとして、環境問題に関しても業界全体で取り組めるようリードし続けていきたいんです。」
―他にもそういった取組のモデルとなる製品はあるんでしょうか?
小田切さん
「海洋プラスチックを使用した布製品の新コレクション『MUSSELBLOMMA/ムッセルブロマ』が、2020年12月10日に登場しました。布地には、スペインの漁師が地中海の網にかかったPET樹脂を回収した再生プラスチックを原材料の一部として使用しています。この布地をつくるために利用できる1キロのPET樹脂を回収するには、同時に9キロのごみ(PET樹脂以外のプラスチック、金属、ゴム、ガラスなどの素材)を海から回収することになるんです。」
―お魚モチーフの素敵なデザインなので、それだけでほしくなりますが、その裏側にあるストーリーを聞いて驚きました。
小田切さん
「どんなに正しいメッセージを込めたり、正しい行いが裏にあっても、生活に取り入れにくいものだとみなさんの行動には繋がりません。デザイン・品質・機能性はもちろん、多くの方が気軽に生活に取り入れられる価格をかなえることで、イケアは多くの方のサステナブル*な生活をサポートしたいと考えています。」
*サステナブルとは、持続可能であること。特に、地球環境を保全しつつ持続が可能な産業や開発などについて言います。
―確かにサステナブルな製品であっても、使い勝手が良いことや買い求めやすい価格であることも大切ですよね。
小田切さん
「実際IKEA仙台では、意図して選ぶ・選ばないに関わらず、お客様の63%がサステナブルな商品を購入してくださっているというデータが出ています。私たちは“サステナブルな生活をしましょう”と大声でメッセージを発信するのではなく、お客様が好きな製品を選んだらそれが実はサステナブルな暮らしにつながっていた、という自然な流れを作りたいんです。」
―イケアさんの考え方は、わかりやすくてしっくりきます。 小田切さん「私たちは地球を“家”と捉えています。自分のものであるという意識を持つと、優しくなれるし真剣に取り組めると思うからです。これから先も地球という家に住み続けるために、限りある資源の中で、どう暮らし、どう働き、どう移動するべきか、改めて考える必要があります。イケアは廃棄物のない世界の実現に貢献し、より持続可能な選択肢やアイデアを多くの方に提供したいと考えているんです。」
―お客様にサステナブルな生活のためのアイデアを提供するために、社内で取り組まれていることはあるんでしょうか?
小田切さん
「イケアでは全スタッフがサステナブルトレーニングを受け、サステナビリティに関する基本的な知識や必要性、イケアのビジョンを学んでいます。
IKEA仙台では、どうすればお客様の意識をサステナブルな方向へ盛り上げていけるかを、全社員で話し合うミーティングをオンラインで行いました。2020年はサステナビリティイヤーとして、これまで継続してきたアクションを一気に飛躍させようと取り組んできたんです。」
―それは心強いですね。私たちも楽しく買い物をする中で、製品を選ぶときに少しでもサステナブルな選択を意識していけたらと思いました。
小田切さん
「例えばイケアは、2021年10月までに、非充電式アルカリ電池の販売を終了する予定です。世界中にいらっしゃるイケアのお客様が、アルカリ電池から充電式電池に切り替えると、年間5,000トンものごみを減らすことができるんです。」
―われわれ消費者の選択が、ごみを減らすことにつながっているんですね。
小田切さん
「一人ひとりの一つひとつの行動は小さくても、みんなで力を合わせれば、大きな変化を起こせるはずです。
イケアはもともと家具屋ではなく、お客様のニーズやお悩みを聞いて、それを解決する手法を提供する企業。環境問題やサステナブルな生活の実現においても、地域のみなさまからニーズをうかがって、イケアが提供できる解決手法は何だろうと考え、行政、企業、社会とも協力して前に進み続けたいと考えています。」