牛と向き合い、ともに暮らしていく
柴田牧場 柴田耕太郎さん
牛は「きっちりルーティン」が大好き
「柴田牧場」は、酪農と和牛繁殖を兼業する農家。先祖代々牛を飼い続けて来て、耕太郎さんは3代目にあたります。父の市郎さんの代より本格的に酪農の規模を拡大し、現在は乳牛35頭、肉牛15頭ほどを飼育しているといいます。酪農では、乳牛全体で出す乳が1日なんと800リットルにも及ぶそう。しかし絞り残しがあると乳房炎になってしまうため、両親と柴田さんの3人がかりで、毎日朝と夕方の2回にわけきっちりと絞らなくてはいけません。絞った乳は「バルククーラー」という冷却器で、撹拌しながら冷やすことで乳質の低下を防ぎつつ、すべて組合へと出荷しています。餌は自家圃場で作っている飼料用とうもろこしと干し草、配合飼料などをブレンドしたものを、毎日きっかり同じ時間に、同じ量を食べさます。柴田さんはその理由を、次のように説明します。「牛は急に違うことをするとストレスを感じ、お乳が出なくなってしまうんです。だから毎日同じルーティンを繰り返すことが大切なんですよ」。もちろん乳を絞る時間も毎日きっちり同じ時間に。意外な牛の繊細さを知ることになりました。
乳牛と肉牛では食べる餌も異なる
一方、和牛畜産部門では、黒毛和牛を種付けし、仔牛の状態で他の肥育牧場へ出荷しています。生まれた牛は2カ月間育てた後に出荷し、血統の良いメスの場合は次の仔牛を生ませるために、しばらくこの牧場にとどめます。ちなみに黒毛和牛の仔を生むのは黒毛和牛だけではありません。乳牛であるホルスタインが体外受精卵による代理出産をする場合もあります。これもひとえに出荷頭数を増やすため。1頭が1年に1回出産をするよう、コントロールしながら面倒を見ています。
餌は乳牛とは異なり、配合飼料を混ぜた稲わらが主体。これは栄養過多になると分娩事故が起こりやすいためで、成牛ではなく仔牛を出荷する繁殖牧場ならではの気遣いです。
実は柴田さんのところでは、酪農・和牛繁殖に加えて米作りも行っていて、できたお米は「秋保清流米」として、近隣の温泉宿へ販売しています。和牛の餌となる稲わらは脱穀した際に出るもの。同時に牛ふんから堆肥を作っていて、田畑に使用するほか、近隣の農家にもおすそ分けをしています。ここにも小さな環境保全型農業※が成りたっていました。
※環境保全型農業とは「農業の持つ物質循環機能を生かし、生産性との調和などに留意しつつ、土づくり等を通じて化学肥料、農薬の使用等による環境負荷の軽減に配慮した持続的な農業」です。(出典:農林水産省)
挑戦しなくちゃモッタイナイ
柴田さんに「おいしい牛乳のとりかた」を聞いてみたところ、次のように答えてくれました。「夏はよく、ヨーグルト菌を加えて、カスピ海ヨーグルトを作っていますよ。冬はなかなか発酵しにくいのでおやすみするんですが。フレッシュなミルクで作ったヨーグルトはひときわ美味しいですね」。
実は柴田さんには次なる新事業を準備中です。それは「しぼりたてのミルクを使ったジェラートの販売」。その材料として、近年ニュージーラインドやオーストラリアで注目を集めている「A2ミルク」に注目しています。柴田さんは次のように説明します。「これは『β-カゼインA2A2』という遺伝子を持った牛から絞った牛乳のことで、お腹がゴロゴロしにくい性質を持っていると言われています。日本ではまだまだ希少であるため、このミルクを使用したジェラートは、それだけで付加価値の高いものができるんじゃないかと考えています」。2022年の販売スタートを目標に、現在準備中とのこと。ニコニコと笑う柴田さんの目が、未来を見据え輝いているように見えました。